あとで考えます

ブログでやれ的な話

B.A.Cがもたらす福音について(21.2.28追記有)

B.A.C 1st Online LIVE 「On Your Mark.」、皆さんもうご覧になられましたか?

私は感想を書かねばならんと思ってアーカイブを再生する度に見入ってしまって、気が付けば公式ダイジェスト声優グランプリのレビュー記事まで上がっていて、もはや自分が語ることもないのではないかと思いつつ、自身の体験の記録として残しておこうと思います。

 

完全ネタバレになるので、ネタバレ無しに見たいという方はこちらのリンクからまだアーカイブを見ることができますので、是非是非ご覧ください。

 

B.A.C 1st Online LIVE 「On Your Mark.」詳細ページ

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さて、今回のオンラインイベントですが、事前の告知通りキャストによる生配信でのトークパートと、事前収録によるライブパートという構成になっていました。トークパートは前半30分との予告でしたが、CD発売などの告知の関係もあり、ライブパート前後に配置されていました。後述しますがこの構成が結果的に安全弁的な役割を果たしていたなとしみじみ感じています。

トークについてはハッシュタグへの投稿やグッズの紹介がメインとなっていましたが、流石エビスト内でもキャストの人気・キャリア的にはトップクラスのユニットだけあり、番組としてのまとまりはかなり安定していたと思います。詳細な内容については割愛させていただきます。

 

 

さて、トークパートが終了しいよいよライブパートが始まります。

前回前々回とこのライブについて色々考えてきましたが、率直な感想としては想定を超えた・想定し得なかった方向でのライブとなりました。

 

冒頭、まさかの実写映像(ライブも実写ではありますが。。。)からスタートします。

新型コロナウイルス禍、現代の渋谷。喧騒の中を一人の少女が歩いています。身に付けたヘッドホンからは8 beat Story♪のメインユニットである8/pLanet!!の「Precious Notes」が流れています。

彼女が街中を彷徨ううちに迷い込んでしまったのがB.A.Cの研究室だった、というのが今回のオンラインライブのコンセプトのようです。

 

エビストのアンドロイド側ユニットはライブについて「我々の住む現実」と地続きである、ということを強く意識して演出されています。オンライン限定で開催するにあたっても「今の日本」を強く感じる映像から導入することで、近未来(2032年)という設定を取っ払ってでも物語の当事者として見てほしい、という意図を感じます。

 

渋谷という街が舞台となっているのは、単純に誰もが知っている光景だからとか、運営会社であるGMOのお膝元だから、作中でも背景イラストや設定上で渋谷や近隣エリアが登場するからなど、様々な理由があると思います。

超大型コンテンツであるラブライブ!シリーズの最新作のPVでも渋谷の街が描かれており、偶然とはいえ結果的に「渋谷から今の音楽を否定する」という導入になったのもなかなか尖った印象に繋がっていると思います。


【試聴動画】Liella! アニメーションMV付きデビューシングル「始まりは君の空」

 

導入映像が終わるとともにライブがスタートします。

会場はまさかのZepp DiverCity TOKYOですが、最初から客入れを想定していないため、三角形に組んだトラスの内側に3人が立ち、足元にはスモークが炊かれているという「ライブのオンライン配信」ではあまり見ない、配信前提のレイアウト。後述するMCでも触れられますが、「あくまでリアルの代替物としてのオンライン」という虚しさから一歩進んだようにも感じて個人的には好印象でした。

 

Silent World、UTOPIAと楽曲が続きます。元々エビストのライブ映像は映像としてのかっこよさを重視して時には演者の顔が見えないカットが入ったりするのですが、今回は最初から客入れ無し・編集前提ということで従来のライブ映像では中々見れないようなアングルやカット割り・演出が多用されており、単純にPVとしても見応えがあるもになっています。

この2曲のタイトルは印象は異なるものの、どちらもB.A.Cが目指す未来の姿を指しています。誰も歌わない、話さない、笑わない、だけどどこか幸せそうな世界。アプリ上のストーリーはまだ僅かですが、2度のライブ出演を通じてその解像度が上がっていくことに若干の恐怖を覚えます。

 

 

2曲歌ったところでMCが入ります。当然、キャストではなくあくまでキャラクターとしてのMCです。構成としては2_wEi 2nd Finalに参戦した時同様、各キャラの自己紹介とアモル様の説法といった感じになっていますが、今回は客席の声もなく、画面の向こうから真っ直ぐ自分の目を見つめて語りかけてくる形のため、より危険度が高いものになっています。MC中のBGM、怖すぎません?

 

クゥエルは愛、ベルは友情というように「善」とされる概念を歪み切った形でこちらに向けてきてくれます。クゥエルは今をときめく楠木ともりにこんなシチュエーションボイスみたいなセリフを長々と話させていいんだ、という一部性癖の方にはたまらないパートを本人の顔のお芝居込みで楽しめますので、彼女のファンという方はこれのために3500円払っても損はないかと思います。個人的には本人のキャラクターや演じてきた役柄とかなり違う印象なのですが、「確かにこの人はすごいな、売れるよな…」と感服しました。

ベルも生身の妙齢の女性にやらせるのどうなの?という役柄を見事に演じ切っていますし、「いつの間にか自分が悪いことになって恫喝されながら、優しいので2度とやらないという約束で許してもらえる」というだいぶ解像度の高い洗脳性のある暴力(割とDVの手口だと思う)を堪能することができますよ。「不法侵入」を覚えたてっぽいところだけは可愛いです。

 

そして問題のアモル様のMCです。

前回は「人気がないとサービス終了するコンテンツ」を話題に出しながら世の中の不平等さを訴えていましたが、今回はこの1年身を以て実感したコロナ禍でのコンテンツの格差やイベントのオンライン開催の歪さについて、コロナという名前は出さないもののかなり辛辣に言及していました。下記に簡単に要約します。

 

・音楽は利益至上主義の欲深い産業と化し、幸せなものでは無くなった。

・財力の有無がエンターテイメントの継続に与える格差を感じているのではないか。

・弱者は赤字覚悟で客席を減らしてまでも小さなステージに必死に縋っている。

・強者は「オンラインライブ」という新たな音楽の形を生み出し勢力を拡大している。

・しかしオンラインライブも、結局はリアルへの思いを募らせるばかりで不完全だ。

・こんな音楽が本当に幸せだろうか?

 

8 beat Story♪は正直なところ有名コンテンツにはなっていないものの、5年近い月日を積み重ねてきたコンテンツです。「アイドル学園系のド本命」という初期のキャッチコピー通り、そういった作品全体が好きなファンも多いですし、ラブライブという成功者の背中を追って生まれてきた同世代のアイドルコンテンツが夢半ばで消えていくのを見てきました。2020年度は大手コンテンツすら、情勢に翻弄される姿を目の当たりにしました。

そういった中で、エビスト自身も含めて出来ることを必死でやってきたこの1年に対して「それが本当に幸せな音楽と言えるのか?」というストレートな問い掛け。

みんな「感動」という一瞬の感情の動きのために苦しみすぎていないか?そのギャップをカタルシスのように感じることで本質的な苦しみを誤魔化して悪循環から抜け出せないんじゃないか?というのはアプリ内でステージに立つ側の人間への問い掛けとして登場した問答ですが、「これが正しいとは思わないが、否定し得るだけの確固たる答えが自分の中にあるかと聞かれたら口を噤んでしまう」という、マジで宗教とか自己啓発セミナー的な精神状態に一方的に追い込まれていきそうになります。

そしてここで畳み掛けるように、急にエコーの掛かった声で呼びかけてくるのです。

 

・目を覚ませ

・こんな不平等な世界、幸せなはずがないんだ

・こんな残酷な世界、正常なはずがないんだ

・B.A.Cがこの世界を壊し、新たな世界を作ってやる

・私が命を賭して、音楽の未来を革命を起こそう。

・だから君はついてこい。

・音楽が好きな君にはその資格がある。その使命がある。

 

そしてB.A.Cで最も攻撃的な楽曲であるPious Bulletsが始まります。

この曲のみ、ジャケットでキャラクターが銃を構えていたり、暴力的な歌詞でその立ち位置が少し謎ではあったのですが、今回のMCを受けて革命による暴力を扇動する曲なのだという指摘を見て、合点がいきました。B.A.Cから全ての人間に向けた曲というよりは、B.A.Cに感化された人間が掲げる赤旗のような曲なんですね。大丈夫か?

楽曲自体は火薬が炸裂したりサイレンで真っ赤になったりカメラがグルンと回ったりマントをバサっとやったら暗転したり、演出がとにかくかっこいいので大好きです。

 

曲が終わると再びMCが始まります。

誰もが予感している「今までとは違う時代」の到来と、一方で捨てきれないこれまでの音楽への未練。しかし、幸せな音楽はもうリアルにもオンラインにも無いのだから、そんなものに縋るのはやめろ。会えなくても、声が出せなくても、B.A.Cの示す新たな音楽が君を幸せにする、と。

最後に披露されるのは新曲、Blessing After Cataclysm(破壊による改革の後の祝福)。B.A.Cというユニット名は新型アンドロイドType_IDとして生まれてアルファベット順に名付けられた3人の名前の頭文字ということでしたが、誕生から1年経ったここにきて非常に象徴的な曲名の略称にも繋がってくるという「マジでどこまで先に決めてたの」という見事なはまり方。歌詞も結構思わせぶりだったり「解析してくれ」みたいなパートもあるので、思考が持っていかれます。あとしれっと室屋光一郎ストリングス。

 

最後の楽曲が終わるとキャラクターの姿はなく、ドラマパートに戻ります。冒頭でB.A.Cの研究室に迷い込んだ少女が目を覚ますと、そこは無音の世界。側に落ちている壊れたヘッドホンを残したまま、去っていくところで映像は終了します。

 

 

もはやライブの配信というよりは一本の映像作品として完成しているのですが、ライブとエンドロールの間に再びスタジオでのキャストのトークパートに戻ります。これはCD発売の告知の意味もあると思いますが、極端な話映像で告知すればいいわけで、素のキャストにわざわざ紹介させたのは視聴者を現実に引き戻す重要な役割があったのではないかとさえ思います(実際かなりホッとしました)。

「喋りのプロである声優に見ている人間を洗脳するような台詞を言わせたらどうなるか」という運営サイドの好奇心から生まれた実験映像のような、真に迫った気味の悪さがMCパートにはありました。有名コンテンツだったら、誰でも見れる無料配信だったら割と洒落にならない映像なので、「どういうコンテンツのどういう意図で作られた映像なのか」理解した上でお金を払って見る、という形式だったことは正解だと思いますし、本当に広く勧めていいものなのかもわかりません。

 

さておき、昨年キャストが発表されたときは「このキャストじゃライブとかはやらないんだろうな」と思っていたわけですが、2_wEiのライブへの参戦が異例だっただけで、元からこういう運用のユニットとして企画されたのではないかという気さえしてきます。世の中がこんなことになる遥か前から「バーチャル、リアルで輝く音楽」を掲げていたエビスト、本人たちも苦しみ悩みながら進んでいる様子が伝わってくるものの、最初期から抱いていた「見せたいもの」が伝わり易いよう世の中がどんどんと変容していくのは興味深いですし、運営の言葉を信じるのであればライブ感ではなくμ'sが活動を止めたあの春の時点でこういうユニットを出すことは想定していたというのもなんかもう純粋に怖い。

 

個人的にはB.A.Cの観客への呼びかけと目指す姿のギャップが理解しきれず、劇場版仮面ライダーゼロワンのエスのような「目指す世界に邪魔な分子を効率よく排除するための梯子外し前提の扇動」と解釈していたのですが、今回のMCを聞いていてこいつら本気で人間の幸せのために今の音楽という競争システムをぶっ壊そうとしてるんだなと納得できたのがとても良かったです。

勿論B.A.Cの主張は作品自体の世の中へのメッセージというわけではなく、来月頭には逆にリアルでのライブで世の中に抵抗する2_wEiの公演も控えており、作品内で勢力ごとのイデオロギーをしっかり構築してドラマを描こうとしているのを感じます。

今後のストーリーの中でMotherやB.A.Cが人間や2_wEiと和解する日が来るのかはわかりませんが、エビストがこの先どうなったとしても、それとは関係無しに世の中が変わってしまうことは避けられないでしょうし、その時我々の心の中にB.A.Cの音楽が残っていれば、それはもうアモル様の「勝ち」なのではないでしょうか。

 

 

余談ですが昨夏に同人誌を出しまして、エビストの作中の出来事を時系列順に並べて考えたり、公開された設定をもとにみんなどの辺に住んでるの?みたいなことをやったのですが、なんと今回実写で「ロケ地」という聖地が誕生しました。そんなことドラマとか特撮でもないのにあるんだ、という衝撃がありますが、折角なのでサクッと触れておきたいと思います。

 

結論から言うと、今回は渋谷スクランブル交差点をスタート地点に、ミヤシタパーク(旧・宮下公園)近辺で撮影されています。ミヤシタパーク自体は歩道橋のシーンの背景に映っていますが割と特殊な建造物なのでちょっと近未来感が出ていいかな、と思います。

 

偶然にも以前現地に行った時にこの明治通り渋谷区渋谷一丁目歩道橋を撮影していました。結構幅が広いため、撮影にも向いているかもしれません。

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歩道橋の後に通るトンネルはミヤシタパークの裏側にあるのんべい横町から神宮通りに出るための線路下通路にもなっている「渋谷ハチ公口自転車駐輪場」です。様々な作品で使われている割と有名なロケ地で、先日も何かの映像で見かけたのですが作品を失念してしまいました。

 

少女はおそらく神宮通りを真っ直ぐ進み、ファイヤー通りには進まずそのまま再度ガード下を通り明治通りに合流する道を選びます。このガード下については背景に映り込んだスタバとファミマの看板から確実かと思いますが、問題はこの後です。

ガード下の途中から、エフェクトがかかるとともに何らかのフェンス横を歩いている様子に映像が切り替わるのですが、ここ以降の詳細がわかりません。何らかのお知らせの掲示物があり、現地でウロウロしていれば見つけられるかもしれませんが。。。

ということで肝心のB.A.Cの研究室についても詳細は確認できませんでした。上部が縦長タイルで側面が打ちっぱなしの何らかのビルの地下駐車場の入り口と思われ、奥に進んで撮影しているので関連会社の施設ではないかと思うのですが、ちょっとわからないですね。私有地の可能性もありますので発見した際もご注意ください。

 

ここまでの情報を想定されるルートともに使い回しの地図にはめ込んで見ました。

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国土地理院タイル

https://maps.gsi.go.jp/development/ichiran.html

 

スクランブル交差点を三千里薬局方面に渡ったら右折して線路下を通る

宮益坂下交差点を左折して明治通りを直進

③宮下公園交差点手前の歩道橋を上り都会の喧騒を眺める

④ミヤシタパーク内に入り、渋谷駅方面に引き返す

⑤ミヤシタパークの端から地上に降りたら再びUターンしてのんべい横丁を直進

⑥突き当たりに着いたら左手にあるトンネルを通って線路下を潜る

⑦神宮通りに出たら右折して直進

⑧左手にシダックスが見えるY字路まできたら右折しガード下を通る

⑨何らかの不思議な力が働きB.A.Cの研究室に辿り着く

 

新型コロナウイルス感染対策をしっかりしながら、Precious Notesを聴きつつお試しください。

 

【2020.02.28 追記】

先日偶然にも原宿方面に用事がありましたので、前述のルートを歩いてみました。

B.A.C 1st EP「BIBLION」ちょうど1周聞くくらいの時間で各地を回れました。

 

スクランブル交差点

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渋谷区渋谷一丁目歩道橋

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歩道橋から見る明治通り(表参道方面)

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歩道橋から見たミヤシタパーク

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渋谷ハチ公口自転車駐輪場

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渋谷神南郵便局前・宮下公園交差点間JR線高架下

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…このカットのあとのフェンス前がどこにあるかわからない、と思っていたのですが、現地を見てみると「渋谷ハチ公口自転車駐輪場」横、「のんべい横丁」の線路側を背景に撮影したものだということがわかりました。トンネルを潜る前に左側を見ていただければ見つけられるかと思います。

ストリートビューですと少し前の昼間の写真だったので、ずいぶん印象が違っていました。やはり現場で検証するということは大切ですね…。

 

反対側は赤提灯だったりするので、上手いこと撮った感が…

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ただ、肝心のB.A.Cの研究室は結局わかりませんでした。比較的特徴的な建物ではあるんですが、本当に私有地なのかもしれません。

(念のためZepp Diver City近辺も探ってみましたが…情報お待ちしております)