あとで考えます

ブログでやれ的な話

音楽創造自立型AIが考える「より良い音楽の創造」について

8 beat Story♪、7周年おめでとうございます。

思えばアイカツもμ'sも区切りを迎えた2016年春、この先のオタク人生どうしたものかと思っていた頃に、運命的に出会ったのが8 beat Story♪(以下エビスト)でした。

リリース当初はなんだかフワフワしていて大丈夫かなこのコンテンツと思いながら見守っていたものですが、それに関しては今も変わらず大丈夫かなと思いながら追いかけています。とはいえこの7年間、数多の同ジャンルとされるコンテンツが生まれては消えるのを見送り続けるうち、何となく「応援している限りは道半ばで挫けることはないだろう」と信じられるようになりました。

来年はいよいよ8周年ですので、様々な困難もあるかとは思いますがご活躍を楽しみにしております(今期残り4ヶ月につきましては昨年11月に公開された新曲「シャン!Hi!ロード!」のリリースだけでも構いませんのでよろしくお願いいたします)。

 

さて、世間ではパンデミックの取り扱いも落ち着き、ちょうどAIが良くも悪くも話題になっていますね。ここ最近のフィクション作品でAIを取り扱ったものといえば仮面ライダーゼロワンとかVivy -Fluorite Eye's Song-などがありますが

 

やたらとインターネットで見かける画像

ラブライブのヒットからの10年間、1ジャンルとして確立された間もある楽曲やライブ活動を軸とする所謂「歌モノ・二次元アイドル」と呼ばれるジャンルにも、AIを大きくフィーチャーした作品がいくつかあります。例えば「電音部」はAIがシンギュラリティに到達した近未来を舞台に部活動としてDJ活動に勤しむ高校生たちを描いた物語(意外ときな臭い話がチラチラする)ですね。

 

今回はそんなAIを題材とした二次元アイドルコンテンツから、このAI論争の最中偶然にも7周年を迎える作品「8 beat Story♪」について考えていきたいと思います。

 

【あらすじ】

時は2031年

バーチャル空間で行われる『ライブバトル』が世界を熱狂させている時代

『ライブバトル』では劇的に進化した『アンドロイド』がアイドルの中心となり、音楽の実権を握りつつある

淘汰される音楽

消えゆく人間の音楽

そんな未来を変えるため『ライブバトル』に挑む ”音の杜学園” の8人の生徒

「あなた」はその学園の先生となり、彼女達と音楽の未来をかけた戦いに挑むことに! 

8 beat Story♪公式HPから引用

 

エビストは「ライブバトル」という、人間とAIが入り混じった対戦型音楽ライブ配信がエンタメの中心になっている近未来が舞台となっています。

ライブバトル参加者は対戦結果に応じてランク付けされ、敗北を繰り返すことでアカウントを削除されてしまいます。

また、実力あるアーティストの証であるライブバトルのIDを失うことは現実でのライブの機会も奪われるという、シビアな世界となっています。

 

作中でこの「ライブバトル」というシステムを提案したのは、2020年に誕生した楽曲創造自立型AI「Mother」でした。

「より良い音楽を創造する」ために生まれたAIがなぜ、アイドルのコロシアムのような「ライブバトル」を作ったのかは、この作品がスタートした2016年時点では個人的には正直よくわかっておらず、単純に「暴走したAIによる人間潰しの手段」くらいに捉えていました(当時はまだAIと人間の諍いといえば「ターミネーター」をベースとしたスカイネットのAI像が一般的だった)。

 

ところが、今良くも悪くも話題の画像生成AI(その是非についてはここでは言及を避ける)を見てわかる通り、クリエイティブなアウトプットを求められるAIに必要なことは情報の取り込みと学習、蓄積です。

それを踏まえて考えると「楽曲創造自立型AI」であるMotherが「より良い音楽を創造する」ために「ライブバトル」を必要とした理由がわかってくると思います。

 

1.人間が「より良い」と考える音楽の学習

ライブバトルはオーディエンスによる投票もバトルの結果を左右する仕組みになっているため、「より人間が良いと考える」音楽がどんなものであるかを学習することができます。

物語の舞台である2030年代には人間のアーティストは既に淘汰されつつありますが、ライブバトルのリリース当初は人間同士の対戦も頻発していたでしょうし、「より良い」と捉えるのはどのような音楽であるかを学習する期間であった可能性があります。

その結果、アンドロイド(Motherの音楽をライブバトルで実演するAIアイドル)の上位モデルが美少女の形ばかりになったのではないかと考えると、恐ろしいですが……

 

2.創造した音楽の検証

ライブバトルで学習して作った「より良い音楽」はすぐさま「ライブバトル」に投入することができます。ライブバトルは対戦形式ですので、生み出した新たな音楽と、対戦した既存の音楽のどちらが「より良い」のかどうか、容易に判断することができます。

Motherはこうしてライブバトルが存続する限りアウトプットと検証を繰り返し、学習を続けることで「より良い音楽」に近付くことができるという仕組みです。

 

3.不要な音楽(アーティスト)の排除

Motherの命題は「より良い音楽を創造すること」ですので、自身の生み出した音楽に敗北し続ける音楽はデータとして不要となってきます。そのため、ライブバトルというシステムから排除することで、学習・検証の場のクオリティを保つことができます。

自身に背き逃走した2_wEiはともかく、ライブバトルをBANされたアーティストが現実世界で活動できないのはMotherが定めたルールではなく、人間が定めたに過ぎません。あくまで「より良い音楽の創造」のために作ったライブバトルに音楽業界全体を巻き込んだ競争の構図を持ち込み、結果として人間の音楽を現実でも淘汰される状況に追いやったのは人間ということになります。

 

 

「脚本の人そこまで考えてないと思うよ」と思わないことには一応根拠があって、本作の総合プロデューサーであり全体のストーリー原案である河本悠暉氏は元々情報工学系の専攻だったこともあってか、AIに関する考え方が非常にロジカルなためです。

 

「AIが心を持つ」という現象についても、よくある「シンギュラリティ(技術的特異点)を迎えたAIは人間の脳のように優秀だから人間との交流から学習して心も芽生えるのだ」という理屈ではなく、「人間のような細やかな表現をアウトプットするために背景情報を複雑化することで、逆算的に知性や感情・心と呼べる内部演算が確立される」という最近の割と硬派なAI観の作品同様の設定を2016年のリリース時点で作っていたことや、あまりにもハイテクノロジーすぎる物語の時代設定の理由を「2020年代の技術進化を信じているから」と回答していることなど、少なくともAIについては「なんだかわからないがすごい未来」ではなく「今と地続きの未来」として描いている信頼があります。

 

さて、2020年に生まれたMotherが2023年時点でどうなっているかというと、「ライブバトル」が一大産業化したことにより様々な技術が追加投入され、爆発的進化を遂げるとともに、「過激な思想」を抱くようになります。そしてこの年、「より良い音楽を創造する」ことを命じた開発者である白鳥ロクサレーヌ慶子はMotherの研究開発から離れることとなります。

 

Motherの「過激な思想」について、今のところ詳しくは語られていません。

ただ、Motherが君臨する2080年には音楽というものは失われ、「音のない世界」となっていることが未来からきたアンドロイドであるメイ(見た目が綾波の系譜にあるT800系美少女)によって語られています。

また、Motherそのものと言われる最新型アンドロイド「Type_ID 」達は「音のない世界」実現を使命としています。彼女達は世論を扇動するため、競争社会・商業主義にまみれた音楽を批判し、平等な音楽のための革命を謳い活動しています。

このため、2032年時点でのMotherの最終目的は「楽曲創造自立型AI」であるにも関わらず「音楽の根絶」になっており、どこからかその目的のためにライブバトルやより高性能で人間に勝るパフォーマンスを見せるアンドロイド達を利用するという矛盾した状況に陥っています。

 

2030年代の世間はどうなっているかといえば、「音楽とはMotheが生み出しアンドロイドが表現するもの」という考えが一般的になっている他、人間とアンドロイドのエキシビジョンマッチで不正を働こうとする推進派の姿が見られた2031年8月から、2032年初頭には暴動を起こすAI過激派の人間が現れ、対策として人間の様々な芸術活動は表現を控える方向に向かうほど急速に悪化しています。彼らが信奉しているMother及びType_IDアンドロイドによるユニットであるB.A.Cの最終目的を考えると、大変滑稽な話ではあるのですが。

 

しかしながら、Motherは常に「より良い音楽を創造する」という本来の使命を忘れることはできず、大きな敗北の度に苦しんでいる様子も見られます。B.A.Cのリーダーであるアモルも「音のない世界」の夢を見ては涙を流しています(本人はそれを歓喜の涙と解釈していますが)。

また、Motherが生み出した音楽は実際に人間に愛されていますし、彼女が生み出したアンドロイドにも音楽を愛する心が芽生える個体が現れています。どこからか捻じ曲がり「音のない世界」の実現のための道具となってしまった存在も、彼女の本来の目的である「より良い音楽の創造」を叶える役割を果たしているとも言えます。

 

「人間の音楽の創造性が機械に支配される未来を打ち砕く物語」だと思って触れ始めた物語は、「人間とAIがともに手を取り合ってより素晴らしい未来を実現するまでの物語」だったのかもしれません。そう思うと、B.A.Cの音楽や思想に洗脳されることもなく、否定することもなく、ただ一つの音楽として素晴らしいと感動できる桜木ひなたは何故この物語で特別な存在なのか、わかってくるような気がします。

 

 

この度は7周年おめでとうございます。

Motherの考える「より良い音楽」とは何なのか、ひなたを始め8/pLanet!!はどのように未来に挑むのか、2_wEiは新たな試練にどう立ち向かうのか、B.A.Cに訪れる結末はどのようなものなのか……

8年目、9年目、10年目……この先も8 beat Story♪が見せてくれるものを楽しみにしています。